暑き日の詩人
晴天の須磨海浜公園に着くとたいしは「あちー!」と言いながらロードバイクを放り出し、熱の籠ったヘルメットを外しベトつくウェアを脱ぐ。あっというまに水着姿に大変身だ。海よりも濃い汗を流すために勢いよく灼熱の白砂を駆け抜け、足の裏に覚えるすぐにも燃えただれそうな感覚に悲鳴をあげながら、かつ不良に絡まられない程度に存在感を隠さず海につっこんでいく。
ざぶーん。
「きもちえーーーーーーーー!!!!」と叫びたかったが元来恥ずかしがり屋な彼は周囲から白い目で見られるのが恐くて「ふぁ~」と息を漏らす程度に留まった。
彼は小学生時代、イジメられっ子U君が皆の興味を引くために一世一代のギャグをやったが全員それを無視したいたたまれない一風景を思い出していた。
それから間もなく”潮風に自転車を曝し続けたくない”といった理由を何とか見つけ出し自分と自転車を洗うために浜へ戻った。若さが足りないせいだ。海につっこんでも濡れているのは胸のあたりまでであった。
情熱は一瞬の限りであると彼は知っていた。彼は、今年もう30歳であった。
もう、あの夏には帰れない。
自分と自転車が乾くのを待ちながら食べた海の家のえらく高価なヤキソバ、浜辺には下乳がちょっと見えている豊乳ビキニのチャンネーを確認するや「上も下も見えてたら全部ミエテルコトニナリマスネ!?」そう思考を巡らせながらニヤつく。
次はラムネ色のビキニギャルを発見した。手に持っていたラムネ瓶にギャルを透かし眺めたたいしは「おお!こうして見たら裸みたいに見えるや~ん!やっぱ夏、さいこーだぜー!!」と友に伝えたかったがやはり彼は一人だった。
一瞬だけ吹いた風がたいしを捉えると彼は少し冷静になり「でも、でもさ。僕がギャルをいくら好きでも、ギャルは僕を好きにならないんだ…。何故なら僕はギャル男じゃないからね」そう己のカルマを振り返るような複雑な表情を浮かべギャルの隣にいるギャル男を呪った。
ギャル男になればギャルを口説けるのに。
どうすれば斜め上に髪の毛がとんがったまま静止しているのか分からなかった。あの部分さえとんがっていればギャル男になれそうな気がしていた。
ヤベエ。ハンパねえ。その程度の語彙力でどうしてギャルを口説けるのだろう。ヤバイ。マジ無理。その程度の国語力でどうしてギャルは誰かと意思ができると判断されるのだろう。
たいしはいったい何がここまで人間を分け隔てるのだろうか考えた。
彼方からヒビ割れた音の「異邦人」が聞こえてくる。異邦人なのは自分なのか、ギャル男なのか考えると相対的に見てたいしのほうが異邦人に思われた。実際彼は異邦人的である。
熱風が空に吹き渡っていた。
夏は、まだ終わりそうにない。