今宵、全てのパブで

ほとんど自宅に帰らないのもあってか、僕には必要な物がそれほどないことを知っている。家に帰れば断捨離と称していろんな物を捨てて暇潰しをしている。

相変わらず冷蔵庫の中身は缶ビールだけで、後は使わないマヨネーズや数ヶ月前に賞味期限の切れた卵がひっそりあるだけだ。部屋に置いてある娯楽らしい娯楽は小説やマンガくらいしかない。コンポもあるがほとんど聴かないので近々自分のバーに置くつもりだ。


近年、昔のガールフレンドに貰った物や詩を書き留めたノートは簡単に捨てられるようになった。これを成長と呼ぶにはまるで根拠がないけど、僕はそれほど過去に縛られなくなっている気がする。

雑誌などは場所をとるだけなので断捨離対象だ。ただ、10年ほど前にロッキンオン(洋楽雑誌)に寄稿されていたエイダンモファットの「今宵、全てのパブで」というコラムだけは捨てる気になれないのでわざわざ切り取って保存することにした。こういうことをするのは初めてである。

彼はスコットランド発のバンド・アラブストラップのシンガーソングライターだ。もう解散したが、僕は今でも時々聴いている。
メランコリックなアコースティックギターに静かに唄う情緒的な詩がうまく同調し、いくつもの美しい曲を発表してきた。女にだらしない酒飲みにしか分からない深みがあり、聴いているだけで僕の気持ちは遠くスコットランドに行くことができた。


ラストツアーには日本が含まれており、ぼくは大阪・京都の両日観に行った。初日は彼らに話しかけ持参したラストアルバムにサインまで書いてもらった。セレナーデという曲をリクエストすると、二日目のライブにはその曲が演奏された。その後、彼らが育った街はどんな所なのだろうと実際にスコットランドにも行った。金がなかったのもあって首都エディンバラでブラブラしているだけに留まったが、それでもエディンバラで立てなくなるまで安いワインで週末を始められたのは良い経験だ。
※彼らの1stシングル "the first big weekind"にそのような歌詞がある。この曲も良い。

アラブストラップ以降の彼らの動向はまるで知らないが、知ればきっと素晴らしいのだろう。
チェックしなくなった理由は簡単だ。ダメ人間エイダンが書くダメな詩にあまりに感化されていたせいか、僕自身が彼の書いた詩に登場する男のようになってしまっているのに気が付いたからである。

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