つつじ、或いは輪郭だけの彼女
つつじの花が好きだ。
桜より、薔薇より何より好きだ。
綺麗で、健気で、どこか悲しそうで好きだ。
雨の日は苦しいけれどつつじを見ると気持ちが和らぐ。
苦しんだ挙句に迎えた朝焼けの中に、昨晩の激しい雨が為に、つつじが元気でいてくれるなら、僕を苦しめた雨だってすこしは良いもののように思う。
苦しんだ挙句に迎えた朝焼けの中に、昨晩の激しい雨が為に、つつじが元気でいてくれるなら、僕を苦しめた雨だってすこしは良いもののように思う。
僕がつつじの良さに気付く前、雨は「ダムに水を貯めてくれる」とか「農家が喜ぶ」くらいにしか納得のいく理由が見つからなかった。本当はそんなこと、僕とは関係のないことのように思っているけれど、僕は理屈が必要な面倒くさい男だから、嫌いなものには存在理由があってほしいと思う。
そういえばもう何年も前の話になるけれど、僕がつつじを好きになった頃、つつじの花がよく似合う女の人がいた。たったそれだけのことで僕はたちまち彼女を好きになり、彼女もすぐに僕を好きになった。彼女はきっと、生まれつきつつじが似合う人だった。
僕らは初恋みたく、初々しくて、分かり合えない恋をした。
新鮮で、大事な毎日だった。
思い出せば恥ずかしくなるような毎日だった。全てのものに感動を見いだせるような、どこかこそばゆい、美しい日々が続いた。手をつないで眠り、互いひっつくように眠り、夢の中でも幸せだった。目覚めた後にする他愛ない会話が愛しかった。
思い出せば恥ずかしくなるような毎日だった。全てのものに感動を見いだせるような、どこかこそばゆい、美しい日々が続いた。手をつないで眠り、互いひっつくように眠り、夢の中でも幸せだった。目覚めた後にする他愛ない会話が愛しかった。
ある日、手を離せば消えてしまいそうな感覚が思っていたより少しだけ早く現実となった。
つつじの花が枯れる頃、彼女は全てから逃げた。身に余る幸福に私は耐えきれないというメッセージだけを残して、彼女は仕事から、住んでいた家、僕から逃げた。
財布も、携帯もそのままで、何も持っていかずに蒸発した。
財布も、携帯もそのままで、何も持っていかずに蒸発した。
僕は胸がいっぱいだった。
僕らの生活に終止符を打ってくれて、僕はほんとうに幸せだった。
僕らは、つつじの花がなくなる頃に、この気持ちも終わるんだって気付いていたから、先に消えてくれたのが優しさだったと思う。
みんな、愛されるのは怖いことだって知っている。
いつか好きな人はどこかへ行ってしまう。
それなら去られるより前に自分から去りたいって思ったっていいだろう。
それなら去られるより前に自分から去りたいって思ったっていいだろう。
大事な人が教えてくれるのは、いつも別れの痛みだけだ。
今、つつじの時代は僕の体を過ぎて、僕はあの人を滅多に思い出さなくなった。
きっと、あの人だって僕を忘れた頃だろう。
きっと、あの人だって僕を忘れた頃だろう。
皆、忘れたいのに忘れられないことで苦しんでいるのに、僕たちは幸せ者だよね。
つつじの花と花の間に、消えていくあの人の面影を見つける。
彼女は「あなたを愛せるのはあなただけなのよ」と囁く。
彼女は「あなたを愛せるのはあなただけなのよ」と囁く。
僕は早くつつじが枯れるよう願う。