失踪できませんでした日記
AというBARに入れば、過去に抱いた女がX人座っている。
BというBARに入れば、過去に抱いた女がX人座っている。
挨拶程度はするが必要以上のことは何も言わない。
別に思うこともない。
左隣の女は何もなかったかのように話してくれるが、右隣の女は僕を憎んだままのようだ。不自然なほど何も話さない。好きだった気持ちを裏切られた女ってまぁこんなものだろ。むしろマシなほうか。はは。
その晩は酔えずに帰宅した。
居心地最高の我が家にはつい最近知り合ったキョウコという女が寝ている。体目的のために何度か家に連れ込んだこの女、知らぬうちに合鍵を作っていた。
そういえば酔っている時に「合鍵作っていい?」と聞かれ「かまわん」と答えた気がする。
そういえば酔っている時に「合鍵作っていい?」と聞かれ「かまわん」と答えた気がする。
いや、言った。言った記憶が今蘇ってきた。
好きでも何でもない女の寝顔は見苦しい。
まったく女というのは馬鹿なくせに、どうして衣食住が掛かったゲームとなると異常な強さを発揮するのだろう。
僕も僕で、そんなことおかまいなしに追い出せば良いのだろうが、どうせまたフリーに戻れば僕は別の女を部屋へ連れ込むだろうし、また合鍵を作られるだろう。
翌日は家に帰りたくない気分になって仕事帰りにバーで時間を潰し、キョウコじゃない女を抱いた。イチャコラしている様子を知人がカウンターの隅っこから見ていた。そしてえらく怒っていた。はは。
ラブホテルじゃ安眠できないな、と思う。起きれば深夜四時だった。
僕は眠り続ける女の髪を持っていたハサミで切ってサイフを盗んでホテルを出た。
セックスのためなら24時間稼働する不良グループに「xxってホテルのxx号室に寝てる女、レイプ願望があるみたいだぜ」と連絡する。彼奴ら、坊主の女とでもヤるんだろうなあ。はは。
僕は眠り続ける女の髪を持っていたハサミで切ってサイフを盗んでホテルを出た。
セックスのためなら24時間稼働する不良グループに「xxってホテルのxx号室に寝てる女、レイプ願望があるみたいだぜ」と連絡する。彼奴ら、坊主の女とでもヤるんだろうなあ。はは。
それにしても飽きた。全てに飽きた。
僕は一度くらいホームレスになってみようかな。
そういうわけでその日の午後、家を引き払う旨の連絡を不動産に伝え、キョウコには俺は田舎に戻るからお前も出て行けと伝えた。キョウコは泣いて叫んだがすでに心を閉ざした僕には聞こえなかった。
田舎っつっても自宅から電車で15分くらいだけどな。はは。許せキョウコ。
寄生できる男は他にいくらでもいる。
寄生できる男は他にいくらでもいる。
月7万円のマンションに住んでいた。ここを引き払うことで家賃光熱費通信費がなくなる。が、多分マンションを借りているほうがホームレス生活より安く済むものだってあるだろう、とも思う。それに全裸で過ごせる空間、天井がある生活というのは普段気付かないが大変ありがたいことのはずだ。それさえ捨てるのだから僕は行きつくところに行きついたミニマリストだ。
仕事を辞めるつもりはない。僕は職場では随分大人しいんだ。お酒は飲めないことにしているし、ウブな男を装っている。
人畜無害。ただの歯車。ガラクタなわたくし…会社での僕は無敵である。
そんなことはさておき、仕事があるうちは名誉が守れる。僕がホームレスであるなんて誰も気付かれないだろう。収入があるのだからそこそこの生活だって保てるはずだ。
まぁ今回の件については人間関係の整理が目的だから、わざわざ家まで引き払わなくてもいいのは分かる。全てこちらの態度の問題だ。変えなくてはいけないものは何もないのだ。
ただ僕には実際中身がない。意思がない、安い男だ。
連絡が来たら受けてしまうし、好きだと言われたら好きだと言ってしまうし、抱いてと言われたら抱いてしまう。そして後になって湧き出てくる黒い感情をわざわざ抱いた女にぶつけてしまう。
結局全ては時間潰しで、やることなすこと全て時間の無駄だ。
女で悩むくらいなら生活まるごと改めて、生活維持に手間暇かける日々を選びたい。
○
まず住居を変更する前にトランクルームを借りる。
そこには以下の物を収容しておく。
・ハンガー掛け
・そこにスーツ、ワイシャツ、ネクタイを掛けておく
・予備の靴
・収納ボックス
・着替え類
・下着類
・洗濯籠
・洗剤、柔軟剤の予備
・トイレットペーパー
・消臭剤
洗濯はコインランドリーで済ますので洗濯物が溜まるまではここに突っ込んでおくことにしよう。洗濯物が臭うのが嫌だから消臭剤も置いておこう。
RPG的に言えばトランクルームが倉庫だ。出先で収穫するものが増えるだろうから持ち出すものは最低限に留めておこう。
次に、24H利用可のスポーツジムも契約する。ロッカーも契約してそこにも以下のものをいれておく。
・トレーニングウェア
・トレーニングシューズ
・シャンプー
・洗顔・髭剃り・髭剃りジェル
・石鹸・ボディータオル
・麺棒、爪切り
身体を洗える場所を確保しておくというのは大事だろう。
それに、体調不良の理由のほとんどは運動不足からくる。だからこのスポーツ施設利用というのは実際のところホームレス生活を続けるための重大な要素となるだろう。
で、普段持ち出すものは以下。
・タオル2日分
・電気シェーバーと充電器
・シャンプー、洗顔、石鹸、ボディタオル
・低周波振動の歯ブラシ(歯磨き粉が必要なくていい
・折り畳みハンガー
・トイレットペーパー1ロール
・折り畳みマット
・寝袋
・タブレットと充電器
パンツは自転車乗りが着用する尻パッドが入ったものにしたい。これからマクドナルドや図書館での滞在が多くなるので固い椅子の対応はしておきたい。いつも座布団を持ち歩くというのは不憫だから履いておくのがベターだ。
服装は基本的にジャージとジーンズにする。あまり洗うものじゃないし見た目的に楽だ。リュックはノースフェイスのものにする。あれも見た目的にオンでもオフでも使える。
スーツ姿で背負っていても違和感がない。
夜はタブレットでの読書が必需になる。紙媒体だと暗くて読めなくなるからだ。
さてまぁ家賃の代わりに掛かるコストはこんな感じになるだろう。
・トランクルーム月4000円
・スポーツジム月8,000円
・wimax+2 月々 3000円
ところどころ掛かるだろう費用はこんな感じか。
・コインランドリー ???円
・ネカフェ1日約 1500円
・バックパッカー向けのホテルやビジネスホテル一泊5000円
風邪が直接的に支出を増やすので食生活、体調管理には気を付けよう。気候の良い日は外で眠るが、天候の優れない時や、自分の体調が悪い時は暖かい布団と寝返りが打てるベッドが必須となる。
一人きりの時間や誰にも会わなくていい空間が欲しい時だってこれらに頼ることになる。性欲処理だって、はっきり言ってしまえばここで済ませればいいのだ。
上記のように生活圏は市内なのでテントは用意しない。街は便利だ。大きめのリュックはまだ人目に止まらないだろうがさすがにテントまで持ち運んでいると怪しまれるだろう。
ふと日曜日には西成の炊き出しや日曜は教会に行くと言うのはどうだろうと思ったが、いや、僕は収入のあるホームレスなのだ。そういうものは本当に必要な方に利用して頂く。それに僕の場合は会社の食堂が朝昼夜営業しているし、会社都合で営業していない時も購買部があるので問題ない。
ついでに会社のロッカーにも以下のものを入れておく。
・替えの下着
・低周波振動の歯ブラシ
・洗顔
・使い捨て剃刀・髭剃り用ジェル
・分厚めのハンカチ
・ネクタイ
ネクタイはお偉いさんと会う時だけしていればいいので会社に置いておけばいいだろう。
ふむふむ。今のところ快適に見える。僕はどこまでも行ける気がしてきた。しかし僕は想定外のことが嫌いだ。もっとデメリットを探さなければならない。リスク管理こそが「出来る男」の全てである。
想像できる範囲では、今の所困るのは郵便物の受け取り方法だろう。
ネカフェやトランクルームに郵便物の受け取りは可能かどうか問い合わせてみたが(出来るところもあるらしいが)基本的に出来ないらしい。
郵便局の私書箱を借りるという手もあるが、頻度や期間など借りる条件がいくつかあって面倒である。僕の場合はクレカの請求書や給与明細など定期的に送られてくるものがあるので大丈夫かも知れないが、そもそも個人で借りられるものではないとも聞くし何とも言えない。面談もあるらしい。とにかく近々私書箱に空きがないか確認しにいこう。
ちなみにAMAZONではコンビニ受け取りがあるので、通販をAMAZONだけにすれば問題ないかと思う。
それから暫くは家の掃除に追われた。なにせ冷蔵庫や洗濯機やベッドなど大きなもの全て捨てるのだ。引っ越すよりも捨てるほうが大変だった。
で、家を引き払う数日前から何度か外泊もしてみた。やはり、どれくらいの頻度でシャワーを浴びられるか、というのが課題となってきそうだ。
そしていよいよ本格的にホームレス生活が始まる…かに見えたが僕は実のところホームレスにならなかった。
飲みに出て知り合った女と恋に落ちた。
彼女の名はモモコといった。
モモコは僕を笑わせてくれる数少ない人だった。僕たちは何度もバーで会い、何件も巡っては語り合った。
彼女は僕が失踪生活を始めることを楽しそうに聞いてくれた。なぜホームレス生活を始めるのかも興味深く聞いてくれた。
セックスを終えるとすぐに寝てしまう僕が、眠れなくなるほど良い女だった。彼女は起きて僕の話を聞いてくれた。おっと、笑ってくれるなよ。その日は僕の人生で初めて救われた気になった日だったんだ。
彼女は子供の頃の話を聞いてくれた。
ひどい街で生まれ育ったこと。
早くに死んでしまった母のこと。父から受けた虐待を未だに夢で見ること。
虐待の影響で片耳が聞こえないこと。
会話する時に斜めになる構える癖が原因でイジメにあったこと。
同級生の家族が幸せそうに見えたこと。それらを嫌いになるしか自分が納得できなかったこと。
本当は誰かを信用したかったこと。
好きになる人はいつも、どこか人が母に似ていたこと。それがマザコンみたいで自分が嫌いになったこと。
自分が成長するに連れ父の顔に似ていくこと。
真面目にしようとすればするほど間違えている気がすること。
本当は誰かに必要とされたかったこと。
その感情の近くにある、母との記憶。
「僕は生まれ変わったらウサギになる。だからお母さんも、僕のお母さんウサギになってくれる?」お母さんは何度もうなずいて涙を流し、ゆっくり、眠るように死んでしまった。
大人になるとそんな願いは叶わないって嫌でも知ることになる。
僕はいつかガラクタになっていた。
僕は初めて人前で泣いた。
彼女は黙って僕を抱いてくれた。僕は大きな子供だった。
彼女は僕が持っていないほとんどを持っていた。ダンスの苦手な僕を上手に踊らせてくれる最高のパートナーになった。
言語化できない感情に押し潰された夜に、彼女は朝まで付き合ってくれた。
全てが憎い夜に、彼女は近くにいてくれた。
躁鬱に苦しんでいる僕にコーヒーを勧めてくれたり、自分の身体に無関心な僕を定期的にマッサージに連れて行ってくれた。
虐待の夢は彼女と会ってから少しずつ見なくなった。
僕たちはほどなく結婚し、女の子を産んだ。といっても僕は待合室でおろおろし、出産の立会では目をパチクリさせているだけだったけど。
女の子の顔は僕そっくりだ。父の呪われた血を引いているようには全く見えなかった。小さな手のひら。小さな足。可愛くって仕方なかった。
猫や犬を可愛いと思ったことはないけれど僕の娘は可愛いと思えた。
今まで僕は人生とは何か、人間とは何かをさんざ考えてきた。
たぶん本当の意味では生涯分からないと思う。でも幸せってやつがここにあったなんてまったく、想定外だった。
僕は、生きているのが楽しい。