僕が忘れていったもの
僕は忘れっぽい。昔好きだったビデオゲームや漫画を、当時すごく好きだったにも関わらずいつの間にかその存在自体忘れていたりする。
幼い頃よく遊んだ友達のことだってほとんど忘れたし、青春時代には恋仲と呼べた人の好物だって平気で忘れている。
思い出そうにもフックとなるものが生活にはなく、思い出されない記憶は狭い空に吸い込まれてゆく。忙しい街で生きるというのはそういうことだ。
僕が忘れていないのは童貞を捨てた夜とか、女性の処女を奪った夜くらいささやかな(相手にとってはささやかではないだろうが)もので、もし忘れられるなら早く忘れてしまいたいと思う。
忘れられないところに「みじめな男」である自分の本性がある気がして嫌だ。
振り返ってはならないというか振り返るのが怖い。それを「上を向いて歩こう」という言葉に置き換えて生きることを後ろめたいとさえ思っている。
○
僕は恋愛体質だった。
それにセックスも好きだった。
学生時代は女の人を探す以外にしたいことがなかった。
そのくせ自分はいつか何か大きなことを為し遂げるんだと思っていた。
面白くもないデート、何を買おうか悩む女の人の横でこんな退屈な日々は僕のものじゃない、こんな日々は間違えていると思っていた。
欲しい物はプリクラの中になかった。
UFOキャッチャーの景品になかった。
だからと言って欲しいものもなかった。
自由になら1秒でなれるけれど、欲しい自由はそういうものじゃない。
金を使って酒を飲み、愚痴り、嘘っぱちの恋をし、二日酔いで出社する。
僕が欲しかった自由はこれだったのか?
どれだけ飲んでも乾き続ける。
○
僕が初めて浮気したのは16歳の頃だった。いや17歳だったかな。忘れた。
お相手の名前や顔は覚えていない。ギャルだったことと中卒だったことは覚えているが今すれ違ってもお互い気付かないだろう。
馬鹿だった。
周りも馬鹿だったけど僕が一番馬鹿だった。
友達の恋人を抱き、恋人の友達を抱き、浮気相手の友達を抱き、バイト先でも抱き、僕は内心では刺されて死ぬのを待っていた。それくらいの結末しか僕にはないと思っていた。
あの頃共に死んでくれる人が現れていたら心中したかもしれない。
それでも(これは未遂に終わったが)平塚明子と森田草平、太宰治と山崎富栄が辿ったそれと同じように、そこに愛はなく、互いが互いの絶望を抱いて死んでいっただろう。
好きな人と笑い転げている時に世界が終わっていたらよかったのに。
○
性交渉のような記憶に残りやすい体験だって回数を重ねれば薄まっていく。恋愛がもたらす激情、別れ際に湧き起こる憎悪だって時間が過ぎてどうでも良くなれば簡単に記憶から出て行ってしまう。
飲み歩いた朝方、一人になって見上げた空はインスタントカメラで撮った写真みたいだ。
恋愛で得られたものはなに?
ゲームで得られたものは?
読書で得られたものは?
端的に言えば感動とストレスだけしかない。
なにも人生はただの暇潰しだと言うつもりはないが、ただもし僕のような男が世の中にけっこういるとして、その人たちの存在は少し淋しすぎやしないかと思う。
ちなみに初めて付き合った人は浮気していた。それがきっかけで僕たちは激しく罵り合って別れた。お互い浮気していたのでどっちもどっちなのだが、何分その頃は今よりずっと未熟だったから仕方ない…としておく。
男はいつも身勝手で、自分の浮気は許せても女の浮気は許せない。
恋人たちはこれ以上望めないと知った時点で思い出作りを停止し、他の誰かで空虚を埋めようとする。
もうダメだ、二度と立ち上がれないと何度言っても人は恋を繰り返す。
○
次に恋仲になった人とも数年過ごした。彼女は僕よりも良い人間だった。それでも、自分がなぜその人を慕っていたのかと言えば、それもはっきり言って思い出せない。
忘れないと誓ったその日から僕はどんどん彼女を忘れて行った。全部が嘘っぱちの現実で、反復できないことを覚えておくのは不可能だ。
僕が出来たのは女々しく後悔するふりをしながら自分を愛することだけだった。
どうして僕は僕しか愛せないのだろう。
大事なものはほとんど忘れた。忘れて、忘れて、欠けた箇所は自作の過去で埋めている。
これは人間の進化に必要なプロセスなのだろうか。
○
好きだったけど、僕が間違えていたせいで繋ぎ止められなかった恋愛がある。
僕は想像力を働かせ、記憶から出ていく彼女たちの涙を拭った。
愛せないなら過ぎていくしかない。
さようならという言葉も添える。
淋しい遊びだ。
○
時間が経って、僕は何者にもなれなかった。
何になりたかったのか忘れたからだろうか。
好きなものが何だったか忘れたからだろうか。
忘れていくから次の思い出を作るんだ、何者にもなれないと気付いてから本当の人生がはじまるんだ、というオチをつけてエントリーを終わらせるつもりだったけど、上を向いてあるこう式の文章を書くのはやっぱり難しい。
今晩はどうもこの文章を覆せるようなうまいアイデアが浮かばない。
街の夜は明るすぎる。
こんな日は早く寝よう。
君ももう寝たまえ。
では。
幼い頃よく遊んだ友達のことだってほとんど忘れたし、青春時代には恋仲と呼べた人の好物だって平気で忘れている。
思い出そうにもフックとなるものが生活にはなく、思い出されない記憶は狭い空に吸い込まれてゆく。忙しい街で生きるというのはそういうことだ。
僕が忘れていないのは童貞を捨てた夜とか、女性の処女を奪った夜くらいささやかな(相手にとってはささやかではないだろうが)もので、もし忘れられるなら早く忘れてしまいたいと思う。
忘れられないところに「みじめな男」である自分の本性がある気がして嫌だ。
振り返ってはならないというか振り返るのが怖い。それを「上を向いて歩こう」という言葉に置き換えて生きることを後ろめたいとさえ思っている。
○
僕は恋愛体質だった。
それにセックスも好きだった。
学生時代は女の人を探す以外にしたいことがなかった。
そのくせ自分はいつか何か大きなことを為し遂げるんだと思っていた。
面白くもないデート、何を買おうか悩む女の人の横でこんな退屈な日々は僕のものじゃない、こんな日々は間違えていると思っていた。
欲しい物はプリクラの中になかった。
UFOキャッチャーの景品になかった。
だからと言って欲しいものもなかった。
自由になら1秒でなれるけれど、欲しい自由はそういうものじゃない。
金を使って酒を飲み、愚痴り、嘘っぱちの恋をし、二日酔いで出社する。
僕が欲しかった自由はこれだったのか?
どれだけ飲んでも乾き続ける。
○
僕が初めて浮気したのは16歳の頃だった。いや17歳だったかな。忘れた。
お相手の名前や顔は覚えていない。ギャルだったことと中卒だったことは覚えているが今すれ違ってもお互い気付かないだろう。
馬鹿だった。
周りも馬鹿だったけど僕が一番馬鹿だった。
友達の恋人を抱き、恋人の友達を抱き、浮気相手の友達を抱き、バイト先でも抱き、僕は内心では刺されて死ぬのを待っていた。それくらいの結末しか僕にはないと思っていた。
あの頃共に死んでくれる人が現れていたら心中したかもしれない。
それでも(これは未遂に終わったが)平塚明子と森田草平、太宰治と山崎富栄が辿ったそれと同じように、そこに愛はなく、互いが互いの絶望を抱いて死んでいっただろう。
好きな人と笑い転げている時に世界が終わっていたらよかったのに。
○
性交渉のような記憶に残りやすい体験だって回数を重ねれば薄まっていく。恋愛がもたらす激情、別れ際に湧き起こる憎悪だって時間が過ぎてどうでも良くなれば簡単に記憶から出て行ってしまう。
飲み歩いた朝方、一人になって見上げた空はインスタントカメラで撮った写真みたいだ。
恋愛で得られたものはなに?
ゲームで得られたものは?
読書で得られたものは?
端的に言えば感動とストレスだけしかない。
なにも人生はただの暇潰しだと言うつもりはないが、ただもし僕のような男が世の中にけっこういるとして、その人たちの存在は少し淋しすぎやしないかと思う。
ちなみに初めて付き合った人は浮気していた。それがきっかけで僕たちは激しく罵り合って別れた。お互い浮気していたのでどっちもどっちなのだが、何分その頃は今よりずっと未熟だったから仕方ない…としておく。
男はいつも身勝手で、自分の浮気は許せても女の浮気は許せない。
恋人たちはこれ以上望めないと知った時点で思い出作りを停止し、他の誰かで空虚を埋めようとする。
もうダメだ、二度と立ち上がれないと何度言っても人は恋を繰り返す。
○
次に恋仲になった人とも数年過ごした。彼女は僕よりも良い人間だった。それでも、自分がなぜその人を慕っていたのかと言えば、それもはっきり言って思い出せない。
忘れないと誓ったその日から僕はどんどん彼女を忘れて行った。全部が嘘っぱちの現実で、反復できないことを覚えておくのは不可能だ。
僕が出来たのは女々しく後悔するふりをしながら自分を愛することだけだった。
どうして僕は僕しか愛せないのだろう。
大事なものはほとんど忘れた。忘れて、忘れて、欠けた箇所は自作の過去で埋めている。
これは人間の進化に必要なプロセスなのだろうか。
○
好きだったけど、僕が間違えていたせいで繋ぎ止められなかった恋愛がある。
僕は想像力を働かせ、記憶から出ていく彼女たちの涙を拭った。
愛せないなら過ぎていくしかない。
さようならという言葉も添える。
淋しい遊びだ。
○
時間が経って、僕は何者にもなれなかった。
何になりたかったのか忘れたからだろうか。
好きなものが何だったか忘れたからだろうか。
忘れていくから次の思い出を作るんだ、何者にもなれないと気付いてから本当の人生がはじまるんだ、というオチをつけてエントリーを終わらせるつもりだったけど、上を向いてあるこう式の文章を書くのはやっぱり難しい。
今晩はどうもこの文章を覆せるようなうまいアイデアが浮かばない。
街の夜は明るすぎる。
こんな日は早く寝よう。
君ももう寝たまえ。
では。