残像の輪郭
バーテンダーという仕事をしていると思うことがある。どうやら世間には考えずに話す人が多すぎて、本当のことばかりが溢れてしまっているようだ。
ある人から「たまには明るい恋愛小説を書いて」と言われたので色々と試してみた。書いたこともないので書いてみようと思った。だが結論から言うとおれの魂の性質としてそれは不可能な行為だった。
"純愛"それ自体が矛盾してるというのに、せめてブログでは嘘を書きたくないと願っているおれに模倣は難しい。
好きとか愛してるとか、ただでさえ嘘くさい響きのそれを文章にした途端、文字と声の間には、何故か途方もない隔たりがあるように感じた。
最初に断っておくが、おれは酔いながらこれを書いている。それは毎回そうだ。修正はいつも後日する。そういえば、酔わなきゃまともに話せない男を信用するな、て誰かに言ったことがあったかな。
「愛してる」そう入力した後、悲しくなる。Ctrl+Aキーを押し、次にDeleteキーを押すと、ディスプレイには空虚が広がった。空虚のほうが愛に近い。
今度は「愛してる」そう声に出して呟いてみる。肉体的な動作に反発するように精神には空虚が広がる。天井を見上げてまた「愛してほしい」と呟いてみる。もうそこには愛の影すらなかった。
昔抱いた女を思い出して自慰行為に耽る。射精した後、いつの間にか日が暮れて部屋が真っ暗だったことに気付く。精液を丸めたティッシュが表面まで湿っていくのを手のひらで感じながら「好きだったのに…あなたのこと、ほんとに好きだったのに…」と声に出してみて、おれは自慰行為にも後戯があることを知った。
男が本当に誰かを愛している時、周りには誰もいないものだ。
○
思えば今まで、幸せなどないと思うほうが納得のいく事柄が多かった。少なくともおれはそんな夜を過ごし続けている。産まれてこなかった子供のことをおれは普段思い出さない。消えた女が今何処で何をしてるかも気にならなくなった。
誰かに闇の中に立っているおれの存在を理解してほしいとは言わない。そうだ。おれは愚かな人間だ。女なら誰だって抱くしそのうえ責任は取らない。もう一度書く。おれは、愚かな人間だ。
おれはおれしか愛せないというナルシシズムを笑ってほしい。下卑し、おれの存在をずっと下に置いて優位に立ち、どうか安心してほしい。それであなたが眠れるのならおれだってそっちのほうが良い。
つい先日までのおれはこれっぽっちも知らなかった。どれほど真剣に誰かを想っても、どれほど金を使っても、どれほどドライブに連れて行っても、どれほどイカせても、どれほど曲を捧げても、どれほど手紙を送っても、どれほどブログを更新しても、好きな女がいつか必ずおれから去って行くってことを。
涙は、当然他人の前でしか流れない。別れ以外に、神聖さを確かめる術はない。あなたもそう思った日があっただろうか。偶然、おれもそう思わざるを得ない心の持ち主だ。
あなたがこのブログで共感を持ってくれたなら、おめでとう、おれとあなたは友達になれるだろう。
○
誰もかも一人で、なのに群を成して大人になってしまった子供たち。多くがある日、自己解釈を言い訳に使えると気付いて現実逃避をはじめてきた。
そうして一人、また一人が頼るものもないまま、信じるものもないまま、都会が作った迷路に入っていく。
たぶんおれは明日も明後日も、一年後も、何年後だって女を抱いて眠る。届かない声の原因を探しながら眠る。
いったいどれだけ深入りすれば、あなた去っていかないだろう。
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