ブロガーは泳がない

飲む、抱く、キメる。それらをしないでは生きられない人がいる。
人に迷惑をかけることでしか生きていけない人がいる。
自分の愚かさに気付かず、進んではいけない道を進む人がいる。

僕のことか、あなたのことだ。

生きるというのは辛く淋しい。相変わらず、ありきたりながらも無慈悲な事実だ。

音楽や、映画や、小説…誰かにとっては酒や恋愛という存在が少しだけその事実を隠してくれるけれど、生きている限り孤独から逃れる術はない。今の所。


飲みすぎた翌日は空っぽになっているか、後悔が詰まっている。普段の僕はどちらかだ。
数回飲みに出るのを我慢すれば欲しい物も買えるだろうが、残念なことに我慢してまで欲しいものはそれほどない。数十万あれば全部揃えられるような小さな物欲だ。


何もしたくない、何も欲しくない時は同時に生きる欲求もない。生きている状態から死んでいる状態になるのが面倒だから時間を過ごして耐えている。
気になるものも特にない。それは達観だとか、悟りだとかそういうものではなく、見栄えのいい言葉に何一つ当てはまらない。

執着心を持たぬように生きて、ある程度は成功したかと思う。しかし恨みも妬みも持たない代わりに世間で身を焦がせる想いも出来なくなった。ため息しか出ないほど虚しい結果だ。

今度欲しいものは「生きている実感」や「適度な執着心」だ。
それらがあれば、自分に「使命感」を持てるかも知れない。
何かを夢中になって追いかけたり憎んだりできるかも知れない。
時間が経つのはアッと言う間だとか言っているうちに、この世から去れるかも知れない。

生きている実感が持てないからといって海岸のタニシのように生きるのも勿体ないとは思う。何も成し遂げていないからまだ死にたくない。良いも悪いもどちらにもつかない経験の欠片を、生きて、拾い集め、なるべく胸にしまいこんで死にたい。

人間は一冊の小説を書くために生きているとアゴタ・クリストフも書いている。ただ小説を構成するものは活字以外の全てだから、為すために今はとにかく経験と呼ばれるものがほしい。

これは、した人にしか分からない。食べた人にしか分からない。行った人にしか分からない。読んだ人にしか分からない。
そういうものが出来るだけ欲しい。そういう意味では欲張りでありたい。

仕事が忙しい、つらいと言えばすぐ「甘えるな」と言い出す世間で自分なりの生を探したい。夜の街に愛を求めたい。僕だけにしか手に入れられない秘め事がもっと欲しい。



              ○
つい10年前は遠くのスーパーより近くのコンビニを選ぶようになったら御終いだ、なんて思っていたけど近年コンビニに寄るようになった。割高に思える缶ビールに手を伸ばす。酒を飲むやつが気まぐれの節約心を出しても大した意味をなさない。

つい10年前は今ほど飲む男じゃなかったはずだ。そう思いながら道頓堀川のふもとに置いてある椅子に腰を下ろす。缶ビールに手を伸ばす。

二人の恋は終わったの
それともまだ始まってもないの

そういう恋愛詩が夜の水面に反射していた。
過去を振り返って楽しんだり悲しんだりする遊びもいつか飽きるだろうか。その次、何をすればいいのだろう。

ところで先日フェイスブックにて「あなたの知り合いかも」と10年前の恋人が表示された。その際は「知り合いなわけがない」と思って閉じたが、先程気になって覗いてみると、彼女は4年ほど前に子供を産み、楽しそうに子育てをしていた。当時は現実感を所有しない芸術的な人だと思っていたが、今こうしてSNS越しに見るとどこにでもいる一般的な女性に視える。

当然興味心が僕に彼女を検索させたのだが、だからといって未練らしい感情は湧いてこなかった。それを自身の成長と述べるのは躊躇う。
時が全て洗い流してくれたのだと書けば格好もつくだろうが、とどのつまり、彼女のどこが好きだったのかさえ僕にはもう思い出せないだけなのだ。

自分の人生から出て行った人が朽ちるのは早い。

彼女から貰った失恋の傷は、いくつかの詩になって、誰の目にも止まることなく焼却炉に向かった。サヨナラの文字が燃え尽きた時に僕も詩人でなくなっていた。

事実はいつもありきたりなものなのかも知れないな。そう思いながら冷えていく身体にぬるいビールを流し込む。今年の冬はそれほど寒くない。

              ○
2015年、僕は自分を守るために必死だった。
そのためなら他の誰が傷付いてもよかった。

今年を振り返ろうなんてもう不可能だ。最近の出来事でさえもはや自分に都合の良いように解釈され、真実からは程遠い。

ブロガーは泳がない。

降り出した雨が、心に波紋を広げている。
まだ暫くこの体は生きているだろう。飽きずに呼吸を続けるだろう。


何度ダメになっても、何度うなされようとまた僕は眠り、目覚め、傷付け合うことがない暖かい場所を探し求めて、いつまでも街を彷徨うだろう。

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